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大阪高等裁判所 平成9年(ネ)1152号 判決 1999年5月18日

大阪市生野区新今里二丁目八番一四号

控訴人(原告)

株式会社 豆新本店

右代表者代表取締役

竹村秀毅

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

浦田和栄

岩坪哲

辻川正人

南聡

冨田浩也

酒井紀子

深堀知子

右補佐人弁理士

小谷悦司

名古屋市西区花の木一丁目六番一〇号

被控訴人(被告)

春日井製菓株式会社

右代表者代表取締役

春日井康仁

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

増岡研介

片山哲章

右補佐人弁理士

早川政名

長南満輝男

細井貞行

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙第一説明書記載の豆菓子等の窒素封入包装方法を使用してはならない。

三  被控訴人は、前項の窒素封入機及び豆菓子等を廃棄せよ。

四  被控訴人は、控訴人に対し、三五〇〇万円及びこれに対する平成六年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

(以下、控訴人を「原告」・被控訴人を「被告」と略称する。)

本件の「事案の概要」「争点」「争点に関する当事者の主張」は、次に付加する他は原判決四頁三行目から同二九頁八行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

【原告の主張】

一  本件特許発明の作用効果は、(1)窒素ガスの連続吹き込みによりシュートパイプ内を窒素ガスで充満させ、さらに余剰分をオーバーフローさせると共に、(2)シュートパイプの外周とフィルムとの間隙を窒素ガスによって封止することによって空気の浸入を防ぎ、窒素ガスによって満たされたシュートパイプ内と袋状部内に製品を投下供給することにより、九九%以上の置換率を達成したところにある。

被告と同じ東京自働機械製作所製の製袋充填機を使用して袋状菓子を製造している訴外吉田ピーナツ食品株式会社で包装された製品の残存酸素濃度は一・〇八%、一・一七%、一・一二%、一・〇九%といずれも低い数値に押さえられている。これは窒素ガスを間欠的に吹き込むことによっては達成できず、連続的な吹き込みによって初めて達成できる数値である。

被告が同じ製袋充填機を使用して製造した製品の窒素ガス充填率が九九%であることは、被告方法が窒素ガスの連続吹き込みを行っていることを示すものである。

また、被告の製造した五種類の豆菓子の各包装袋内の窒素ガスと酸素ガスの量を製造後三ヶ月の時点で測定した結果によっても、ピーナッツ類の残存酸素量は平均〇・三%である。このような低率の残存酸素量は間欠的な窒素ガスの吹き込みによっては不可能であり、被告方法では連続的な窒素ガスの吹き込みが行われていることは疑いがない。

二  仮に、一次側の窒素ガスの吹き込みが間欠的であるとしても、被告が主張するような一秒ないし〇・二秒の吹き込み間隔では、東京自働機械製作所製の製袋充填機のガスパイプのノズル先端においては、流体工学の常識からみてノズルの内圧は完全には抜けきれず事実上連続吹き込み状態となることが明らかである。

三  被告方法によっても前記のような低率の残存酸素量が達成できるのであれば、その合理的な理由を開陳すべきであり、その説明ができなければ特許法一〇四条により生産方法の推定が適用されるべきである。

四  シュートパイプの外周に巻き付けたフィルムの両端部を縦シールする方法として、本件発明のように、縦シール部5(ヒーター)を押し付けて縦シールしつつフィルムを引き下げる方法を、被告のように、縦シールするヒーターを間欠的に押しあててシールする方法に変更することは、単なる設計上の微差、あるいは周知技術の変換に過ぎず、実質上同一のものである。

第三  当裁判所の判断

当裁判所も、被告方法は原告の本件特許権を侵害するものではないと認定判断するが、その理由は以下に付加する他は、原判決「第四 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  被告方法が本件発明の構成要件A・C・Fを充足することは争いがない。従って、本件の争点は、被告方法が本件発明の構成要件B・D・Eを充足するか否かの点にあり、特に構成要件D・Eを充足するか否かが主たる争点である。

二  構成要件Dについて

本件発明の構成要件Dは、「シュートパイプの一方から窒素ガスを連続して吹き込むことにより、吹き込み側開口部から窒素ガスを常にオーバーフローさせる」というものである。

1  原告が、被告方法は構成要件Dを充足しているとする根拠は、被告と同じ東京自働機械製作所製の製袋充填機(「TWXIN」)を使用している訴外吉田ピーナツ食品株式会社(以下「吉田ピーナツ食品」という。)の製品中の残存酸素濃度を測定したところ、一%前後の低い数値に押さえられていたという点である。

原告は、被告方法によって製造された製品中の残存酸素濃度が一%以下であった(甲八・一〇・一一)ことを前提に、右のような低い数値は、製袋充填機に窒素ガスを間欠的に吹き込むことによっては達成できず、連続的な吹き込みによって初めて達成できる数値であるという。

しかし、右は、被告方法に用いられる製袋充填機の装置と吉田ピーナツ食品の装置とが同一であることを前提として初めて成り立つ根拠であるが、被告が右「TWXIN」を使用して被告方法を実施していることは争いがないものの、同機械については仕様変更もあるのであり(甲五、またユーザーの使用方法、目的に合わせた別注部分もありうる)、その装置が同一であるとは認めるに足りる証拠がない。

原告は、吉田ピーナツ食品の製品中の残存酸素濃度と被告方法によって製造された製品中の残存酸素濃度とがほぼ一致することのみを直接の根拠として、双方の装置は同一と推定すべきであるとも主張する。

しかし、被告方法によって製造された製品中の残存酸素濃度は、被告が、本件係争が発生する以前の平成四年から品質管理のために無作為に抽出して測定していた結果によれば、五種類の製品中「フライビンズ」と「グリーン豆」の残存酸素濃度は五ないし七%と高数値であり、「バタピー」「うすピー」「味つけピー」のそれも二ないし四%という数値であって、製品によってばらつきはあるもののいずれも恒常的に一%以上であったことが認められる(乙一一)。

従って、原告の主張する論拠はその前提を欠くもので、残存酸素濃度の比較によって双方の装置が同一であると推定することはできない。

2  原告は、仮に一次側の窒素ガスの吹き込みが間欠的であるとしても、被告が主張するような一秒ないし〇・二秒の吹き込み間隔では、製袋充填機のガスパイプのノズル先端においては、流体工学の常識からみて事実上連続的な吹き込み状態になると主張する。

しかし、構成要件Dは、あくまで吹き込み側からの窒素ガスの注入が連続的であることを要件とするもので、出口側の窒素ガスが連続的であることを要件とするものではない。

原告の右主張は作用効果の異なる場面を根拠に構成要件の充足をいうもので採用することはできない。

3  のみならず、被告方法において、出口側の窒素ガスが連続的であることを認めることも困難である。

かえって、検乙四(これは、被告工場内の本件機械を検証することについては、被告が企業秘密の存在を主張するところから、平成一〇年一〇月二二日に当裁判所受命裁判官と被告側関係者のみの立会により現地説明会が行われ、原告の要望に基づく条件による検分が行われたが、その際の状況を撮影したビデオテープである。《なお弁論の全趣旨によれば、同テープに録音されているブザー音は、同工場内において稼働していた他の機械のものか、原告の要望した条件設定による検分のため機械に投入される豆類の投入量とこれを被覆する袋の流速の不適合が生じた際の警告音であることが窺われる。》)によれば、吹出し口においても窒素ガスの吹出しが間欠的となることが認められる。検甲一一では、間欠的ガスの供給が吹出し部分において連続的となる状況が示されているが、これは被告の機械と全く異なる装置によるものであって、右認定を妨げるものとはなしえない。

三  構成要件Eについて

本件発明の構成要件Eは、「シュートパイプの他方からシュートパイプの外周とフィルムとの間隙を通して窒素ガスを排出させ」るというものである。

原告は、被告方法が右構成要件Eを充足すると主張するが、証拠(検乙一の1ないし10)によれば、被告方法を実施しているとされる製袋充填機では、シュートパイプの外周からフィルムを巻き付けるため、必然的にフィルムとシュートパイプとの間に間隙が生じること、すなわち、その間隙から気体が浸出入する余地のあることは認められるが、それ以上に被告方法が右間隙を通して窒素ガスを排出することを目的としているとまでは認めるに足る証拠がない。

四  以上のように、本件発明の構成要件D・Eともに、被告方法がこれを充足していると認めるべき証拠はないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

これと同旨の原判決は相当であって本件控訴は棄却すべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一一年二月四日)

(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 裁判官 山田陽三)

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